ウクライナ南西部沿岸のヘルソン州都ヘルソンを今年3月から占領していたロシア軍が撤退完了を発表した11日、ウクライナ軍がヘルソン市内に入り、歓喜する住民に迎えられた。ウクライナ政府幹部は、11日午後4時(日本時間同11時)過ぎには、ウクライナ軍はヘルソンをはじめ、ドニプロ川西岸の大部分を「ほぼ完全に掌握した」と話した。
現地の複数の映像には、ウクライナ国旗を振り、国歌を歌ったり演奏したり、「ウクライナに栄光あれ」などと声をあげながらウクライナ軍を出迎える住民の様子が、多数映っている。
ロシア政府は、ヘルソン周辺から兵士約3万人、装備や武器約5000点を後退させたと発表した。
ウクライナは同日夕、自軍がドニプロ川の西岸まで進んだと明らかにした。
ドニプロ川を渡るための主要な経路、アントニフスキー橋が部分的に崩落した映像が11日に拡散し始めた。破損の原因はわかっていない。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は毎晩定例の演説で、ヘルソンは「我々の街だ」と宣言。ヘルソン住民は「ずっと待っていた」として、住民は「決してウクライナをあきらめなかった」と話した。さらに、住民は市内にロシアが残したロシアの意味するマークなど、「占領者の痕跡」を消す作業を続けていると述べた。
他方、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の報道官は、今回の後退は決して屈辱的な敗退ではないとの見方を示した。
ロシアでは、主戦派のコメンテーターたちがソーシャルメディアなどでヘルソン撤退を批判しているのに対し、政府関係者は撤退ではなく「再配備」だと説明している。
2月24日のウクライナ侵攻開始からロシアが占領した州都は、ヘルソンだけだった。今回の撤退は、ロシア軍による最大の敗退のひとつとみられている。
ヘルソン市を占領していたロシア軍は、ドニプロ川東岸で態勢を立て直しているものとみられる。
ヘルソン市内では多くの住民が、往来で歌ったり踊ったりして、8カ月ぶりの解放を喜んだ。
これまではBBCの取材に「ジミー」とだけ名乗った住民男性は、自分はアレクセイ・サンダコフだと本名を名乗り、「感極まっている」と話した。
サンダコフ氏は11日午後、「(ヘルソンは)自由だ。前とは違う。みんな朝から泣いている」と話し、やってくるウクライナ兵を「みんな抱きしめようとした」と述べた。さらに、「今夜は誰も眠れないと思う」と話した。
■「ほぼ完全に掌握」
11日午後4時(日本時間同11時)過ぎには、ウクライナ国防相顧問のユーリ・サク氏が、ウクライナ軍はヘルソンをはじめ、ドニプロ川西岸の大部分を「ほぼ完全に掌握した」と話した。
ロシア軍が残したと思われる地雷やわなに注意しながら、ウクライナ軍は慎重に進んでいると、サク氏はBBCに説明した。
ヘルソン市内にはロシア兵が多少残り、軍服を脱いで一般市民のふりをしようとしていると、サク氏は指摘。そうしたロシア兵には投降するよう呼びかけていると話した。
サク氏は今回のヘルソン奪還について、ウクライナ軍がこれまで首都キーウやチェルニヒウ、ハルキウなどからロシア軍を追い出した戦果に匹敵する、大勝利だと評価した。
ただし、11日には南部ミコライウが砲撃され、少なくとも7人が死亡するなど、今後はロシアによる報復が予想されるとして、慎重な姿勢を示した。
■地図で見る撤退の様子
BBCのポール・カービー欧州デジタル編集長は、ロシア国防省のイーゴリ・コナシェンコフ報道官が記者会見で公開した地図に注目した。
オレンジがロシアの支配地域だが、ヘルソン州のドニプロ川から西側は全て白くなっており、もはやロシアのものではないことが示されている。
この地図では、黄色で囲まれた「XEPCOH」がヘルソン市に当たる。
これに先立ち11月9日夜(日本時間10日朝)の時点で米シンクタンク戦争研究所が示した地図では、ミコライウ州東部の一部からヘルソン市周辺のドニプロ川西岸の多くを、ロシア軍がまだ部分的に制圧していると表示された。
その前日の戦争研究所データでは、ヘルソン市周辺からミコライウ州東部の一部を、ロシア軍が完全に制圧しているとされていた。
この3枚の地図から、ロシア軍が日に日に東へと後退している様子がわかる。
コナシェンコフ報道官は会見で、「西岸には軍用車両も装備もひとつも残っていない(中略)すべてのロシア軍人はドニプロ川の東岸に移動した」と話した。
さらに、ロシア軍は現在、川の東側で防御態勢をとっていると付け加えた。
■一方的な「編入」の後に
ウクライナでは夏から、南部で素早い反攻を展開。政府はヘルソン周辺で41の集落を奪い返したと話していた。
これに対してロシアは、一方的に「住民投票」と呼んだものを行い、9月末にはヘルソンをはじめとする4州の「編入」を一方的に宣言。プーチン大統領はヘルソンなど4州を「永遠にロシア」だと力説していた。
ロシア国防省は9日までに、州都ヘルソンからの撤退をロシア軍に命令。同軍のウクライナ総司令官、セルゲイ・スロヴィキン将軍は、ヘルソン市への補給を持続できなくなったと話した。スロヴィキン司令官は国営テレビで戦場の様子を説明した上で、「ドニプロ川に沿って防衛線をまとめる方が、まともな選択肢だ」と話していた。
この発表の場にプーチン氏の姿はなかった。
10日の時点ではロシア軍が撤退する様子はほとんどなかったものの、ウクライナ側は2つの地点で最大7キロ進んだと主張していた。
11日になると事態は急に動き、ヘルソン住民からロシア軍がいなくなったとの報告が相次いだ。
後に市中心部の自由広場で、多くの住民が国旗を振り、「ウクライナ軍に栄光を!」などと繰り返しながら、自国兵を歓迎する様子が撮影され、次々とソーシャルメディアに投稿された。
(英語記事 Ukraine war: Celebrations as Kyiv takes back key city Kherson)
(c) BBC News