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給食費と引き換えに「強要カード作れ」と市が通知 背景に見える国の押し売りな普及策 

 2023年1月19日 11時00分

www.tokyo-np.co.jp

 

 世帯全員がマイナンバーカードを作れば給食費や学用品費は無償、でも作らないと有料—。昨年12月、岡山県備前市が子育て中の保護者あてに、こんな通知を出していたことが分かった。同市は保育園の保育料無償化も、農林水産関係の補助金も同様の条件付けをする方針だ。あくまで任意取得のはずのマイナカードの有無で、市民への給付に差がつくのは問題が大きい。背景には国の強引すぎるカード普及策がありそうだ。(中山岳、山田祐一郎)

 

◆カードの有無で負担が変わるのは「不公平」の声

 

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 岡山駅から東に25キロ余に位置する備前市備前焼で知られ、瀬戸内海沿いの地域はカキの養殖も盛ん。そんな人口約3万2000人のまちが、揺れている。

 きっかけは先月16日、市立小中学校の保護者らに配られた「給食費及び学用品費について」と題する文書だ。同市は2022年度から市立小中学校で給食費や一部の学用品費を無償化した。だが、文書によると、23年度から「児童・生徒及びその世帯員の全員がマイナンバーカードを取得している場合、申請により納付免除」するという。 

  市内の子育て支援団体で共同代表を務める播本博子さん(62)は「え、こんなことするの?と驚いた。カードの有無で給食費などの負担が変わるのは、差別ではないか」と憤る。複数の保護者からも「不公平だ」などの声が寄せられた。

 播本さんの団体は同22日、吉村武司市長らあての抗議文を市に提出。今月13日には別の団体も同様の文書を出し、抗議は広がっている。播本さんや保護者らは「子ども達への平等な教育・保育を求める実行委員会」を設立。カード取得にかかわらず無償化を続けるよう、今月15日から署名活動も始めた。

 

◆保育料や農業漁業の補助金も同じ条件

 ただ、問題は小中学校にとどまらない。同市は保育園やこども園に通うゼロ歳〜5歳の保育料や給食費も、23年度から「世帯全員のマイナカード取得」を独自の無償化の条件にする方針。ほかに農業・漁業者が対象の資材価格等高騰対策の補助金にも、同じ条件を設けた。

 こうした方針は、市議会でも先月、説明された。中西裕康市議(共産)は「教育をはじめ行政サービスは公平性が求められるのに、大きな問題だ」と批判する。一部の議員と撤回を求めたものの、市は進める姿勢を崩していない。中西氏は「お年寄りが入院や老人ホームに入所している場合など、全員がマイナカードを取得しづらい世帯もいる。そうした世帯では不利益を受ける人が出る。いくら良い施策をつくっても、任意取得のマイナカードで市民を線引きするのは、とんでもない話だ」と訴える。

 市はどう考えているのか。教育総務課の担当者は「マイナンバーカード普及を100%にしようという市全体の方針で進めている」と説明。取得できないような事情のある家庭はどうするのか尋ねても、「今後、課題が出てくれば検討する」と述べるにとどまる。

 市のマイナカード交付率は今月8日時点で68.37%。岡山県内の自治体ではトップクラスだ。それでもなりふり構わず普及を図るのはなぜか。

 中西氏は「市長の意向もある」とみる。吉村市長は先月の市議会で「マイナンバーカードの普及でみなさまの生活を豊かにすることができるため、国も自治体も100%取得を目指す意義がある」と強調。今月の「広報びぜん」に寄せた新年あいさつで、「市民全員にカードを取得していただけるよう啓発に努め、先進的なデジタル都市を目指す」などとした。

 

備前市のやり方は妥当? 省庁は明言避ける

 備前市給食費などの無償化には、国の地方創生臨時交付金も充てられている。ただ、総務省マイナンバー制度支援室は「市の政策判断であり、答える立場にない」。農林水産省飼料課は「カード取得を条件にするようには指導していない。良いかどうかは判断しかねる」。文部科学省は「担当者が不在」などとし、18日中の回答はなかった。 

  マイナカードの普及が進む自治体は、備前市の事例をどう見るのか。15日現在、交付率が88.7%と全国の市区別で最も高い宮崎県都城市。全国に先駆けてタブレット端末を使った申請補助を行っており、その手法は「都城方式」として全国で活用されている。

 同市デジタル統括課の担当者は「一つ一つ手を抜かず、カードの利活用を含めてきめ細かに住民に理解を求めてきた」と自負する。その上で備前市のやり方には「カードを持つことと、子ども施策にどのような関係性があるかメリットについての説明が足りないのではないか」と話した。

 

◆「アメとムチ」カード交付率で地方交付税に差

 いずれにせよ、全国の自治体がカード普及に躍起になる背景にあるのは、政府による「アメとムチ」の方針だ。政府は昨年6月に閣議決定した「デジタル田園都市国家構想」の基本方針で、マイナカードの交付率を地方交付税の算定に反映させることに言及した。その後、交付率が平均未満の約630自治体を「重点的フォローアップ対象団体」と名指しして対策強化を要請。一部交付金について、「カード申請率が全国平均交付率以上」を応募要件とする仕組みを検討している。 

  「地方交付税一般財源として中立性が必要。特定の政策を優先させるよう自治体を誘導してはいけないし、政策の進捗程度で自治体を差別してもいけない。交付税補助金化で、非常に不適切だ」。東京大の金井利之教授(自治行政学)はこう指摘する。自治体にも「自主的にせよ、国に誘導されたにせよ、普及のために住民をカネで釣るのも問題だ」とくぎを刺す。

 

◆同意なしに口座登録 国家資格や自動車登録にも

 政府は今月召集される通常国会で、マイナンバー法改正案を提出する方針だ。マイナンバーの公金受取口座について、行政機関が年金や児童手当の支給のために把握している口座情報を未登録者に通知し、拒否しなければ同意なしで登録できるようにする。だが、改正案を取りまとめたデジタル庁の有識者会議では一部の専門家から「乱暴」「議論を呼ぶ進め方だ」との懸念も出た。 

  また法案では、これまで社会保障と税、災害対策の3分野に限られていたマイナンバーの利用範囲を国家資格や自動車登録、在留外国人の関連事務などへ拡大する。会議に参加した立命館大の上原哲太郎教授(情報セキュリティー)は「国民に対し、利用拡大が招く利便性とリスクの説明がないまま利用範囲が拡大されている。用途が広がると勝手に名寄せされ悪用されるリスクが拡大するが、現状の対策で十分なのか議論が尽くされていない。慎重になるべきだ」と危ぶむ。

 政府は、健康保険証廃止の方針を掲げてマイナカードの事実上の「義務化」を目指し、取得者に最大2万円分のポイントを付与する「マイナポイント第2弾」の期限を昨年末から今年2月末まで延長するなど普及に躍起だ。事業予算は1兆8000億円に上る。

 元財務官僚で明治大の田中秀明教授(公共政策)は、「カードに対する不安の声もある中、政府のやり方はポイントで国民を釣るようなものだ」と批判。政策としての費用対効果についても「普及にこれほどまでのコストをかけても、利便性が向上したとは感じられないのが一番の問題。自治体ごとにばらばらだったシステムを連携するのにもコストと手間がかかる。IT業者がもうかるだけだ」と疑問を呈した。

 

◆デスクメモ

 政府は「マイナカードはデジタル社会のパスポート」とうたう。しかしそれは、パスポートがないと「デジタル社会非国民」で、その社会の行政サービスも受けられないということを、意味するのだろうか。備前市の事例を特に問題視しない各省庁の姿勢を見るに、空恐ろしさが募る。(歩) 

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