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しばらくかかりそ。サグラダファミリアより遅くなるかも。

「500万人のマイナンバーと年収情報」を中国に丸投げした池袋の企業に支払われた「7100万円の報酬」

gendai.media

 

2023.07.28

 

【追及スクープ】「500万人のマイナンバーと年収情報」を中国に丸投げした池袋の企業に支払われた「7100万円の報酬」

 

週刊現代
講談社 /月曜・水曜発売

岩瀬 達哉

 

事件の概要》 2017年の大幅な税制改正を受け日本年金機構は、厚生年金から所得税などを源泉徴収する「税額計算プログラム」を作成し直す必要があった。約770万人の厚生年金受給者に「扶養親族等申告書」を送付。記載内容に漏れや間違いがないかをチェックしてもらうとともに、あらたにマイナンバーや所得情報を記入し、送り返すよう要請。送り返されてきた「申告書」をデータ入力することでプログラム化をはかることとした。機構はその入力業務を、東京・池袋のデータ処理会社、SAY企画に委託したものの、同社が中国大連市のデータ処理会社に再委託したため、そこから日本の厚生年金受給者の個人情報が、中国のネット上に流出した。

 

なぜ大急ぎで支払ったか

 

このように、機構の給付業務調整室の福井室長は、履行能力のないことを百も承知でSAY企画に落札させ、数々の契約違反にも目をつぶり、約1億8255万円の契約を結んでいたのである。

 

この契約の不合理性について、立憲民主党石橋通宏議員は参議院厚生労働委員会で質している。

 

「SAY企画、C級でしょう。……C級だけれども大丈夫と判断したその理由、出してください。出せるんですか」('18年4月5日)

 

C級というのは、霞が関の入札参加基準を定めた「全省庁統一資格」でCランクという意味である。Cランクは、基本的に「300万円以上、1500万円未満」の入札にしか参加できない規定だ。

 

水島理事長は、ここでもまた質問をはぐらかし、とぼけた虚偽答弁を返していた。

 

「事前審査の状況におきまして履行能力がないというふうに判断することは極めて難しいと思います」

 

しかし先に見たように、「委託業者選定審査チェックリスト」を使った事前審査を、まともにおこなわず入札参加資格を与えていただけだった。その事実を隠す、一つ目の虚偽答弁をおこなっていたのである。

 

詐欺で告発するどころか

 

事前審査で履行能力がないのがわかっていながら、業務委託契約を結んでいたことを認めれば、国会審議が紛糾するのは明らかだった。

 

そんないい加減な会社と、なぜ契約したのか。中国に再委託したのは「氏名とフリガナ」の入力だけではなく、「申告書」の入力まるごとだったのではないか。また、そのことを機構も了承していたのではないかと、追及に歯止めがかからなくなるのは、目に見えていた。

 

当時の国会では「SAY企画を詐欺できちんと告発すべきだ」「損害賠償請求をすべきだ」といった指摘もあいついだ。

 

水島理事長は、「御指摘のとおりだと思います。……厳格に行う方針でございます」(衆議院厚生労働委員会・'18年3月28日)と答えている。

 

だが実際には、「詐欺で告発」するどころか、SAY企画の契約違反を確認後、約7100万円を支払っていたのである。

 

この支払いは、特別監査でSAY企画の中国への再委託を確認した9日後の、1月15日におこなわれている。しかも機構の支払いルールを無視しての大急ぎでの支払いだった。

 

契約書では、「損害賠償、違約金その他金銭債権の保全又はその額の算定等の適正を図るため必要がある場合、その額が確定するまでの間……支払いを留保する」(第25条の3)とある。

 

理事長に質問すると

 

しかしなぜ、契約違反による損害の発生がわかっていながら、その額が確定する前に約7100万円を支払う必要があったのか。

 

わたしは、委員を務めていた「年金事業管理部会」で質問したところ、水島理事長は支払いの正当性についてこう述べた。

 

「私どもの支払いのルールでございますが、月末締めの15日払い、15日締めの月末払いというサイクルでございます。したがいまして、本件に関しましては、12月28日に決裁が行われておりますので、1月15日に払うというのはルールに沿った支払いだということでございます」(第48回議事録・'20年2月20日

 

これが二つ目のウソである。

 

機構の支払いルールは「会計事務取扱細則」で、「原則として検収の翌月の末日払い」(第31条の1)と定められているからだ。

 

検収」というのは決裁日のことである。12月28日に決裁がおこなわれていれば、翌月の1月末日に支払われるのがルールである。

 

実際、それ以前の2回の支払いは、ルールどおり決裁された翌月の、末日に支払われている。

 

・10月分は10月31日が決裁日で、支払いは翌月の11月30日

・11月分は11月30日が決裁日で、支払いは翌月の12月29日

・12月分だけが、12月28日が決裁日で、支払日は1月15日であったのだ。

 

すべてはアリバイ作りだった

 

さらに不可解な点がある。機構は、SAY企画との契約を打ち切ることなく、4月30日まで契約を維持し続けていたことだ。

 

立憲民主党初鹿明博議員は、衆議院厚生労働委員会でこの点を質している。

 

「1月10日に違反が確認されたのちも、SAY企画に業務を委託し続けた理由はなにか」('18年3月28日)

 

水島理事長は、2ヵ月ごとに給付する年金業務を滞らせないため、契約を継続したと、もっともらしい弁明をしていた。

 

「(2月の給付のあとの)4月の支払いに向けて、申告書の入力作業を継続する必要がございました。……SAY企画にかわる新たな業者を探しておりましたが、なかなか見つからなかったということもございますが、……やむを得ず委託を継続したものでございます」「私どもとしては、万全の措置をとって継続したということでございまして、御理解をいただきたいというふうに思います」

 

年金受給者に影響が出るので、「やむを得ず契約を継続した」と言われれば、政治家はそれ以上の追及をしにくくなる。

 

しかし、4月15日の定期支払日に必要な「申告書の入力業務」は、1月10日時点でほぼ終了していたのである。


SAY企画の裏で

 

この日までにSAY企画は、必要な入力業務の95%、実数にして約24万件を納品していた。残りの約18万件にしても、2月19日までに納品を終えている。

 

SAY企画に替わる新たな事業者との契約も2月23日に結ばれており、4月末まで契約を維持する必要はなかった。

 

これが三つ目のウソである。

 

ところで、SAY企画が納品した「申告書」のデータは、中国人オペレーターによる入力誤りが「全体で約31.8万人」分発生していたため、機構では尻拭いのため職員をのべ1938人動員し、3月3日まで補正に当たらせていた。当然のことだが、SAY企画はそれらの作業には関わっていない。

 

ちなみに、中国での「氏名とフリガナ」の入力ミスが多かったのは、日本人の氏名を中国読みしていたことによる。

 

たとえば「年金花子」と入力する場合、姓を「年金」、名を「花子」としなければならないが、中国人オペレーターは、姓を「年」、名を「金花子」と入力していたと、年金局の事業企画課はわたしに説明した。

 

このようなデタラメをしていた会社と、4月末まで契約を維持し続けたのは、その期間中、実際にはおこなっていなかった入力作業をさせていた、とするためだった。

 

この間、機構からSAY企画への支払いはない。しかし作業をさせていたとの名目を作れば、その架空の作業代金約4100万円を、機構が被った損賠額の一部として相殺したと説明できる。そのアリバイ作りのため、契約関係を維持していたのである。

 

丸投げと「口止め料」

 

実際のところ、機構が被った損害額は、総計約2億2000万円にものぼっていた。その内訳は、職員による氏名などの補正作業のほか、厚生年金受給者に発送した「お詫び状」の作成費用や、問い合わせに対応する「専用ダイヤルの設置経費」などだ。

 

本来なら、約4100万円に加え、違反発覚後に会計規則を無視して大急ぎで支払った7100万円も、損害額の相殺に充てるべきだった。

 

だが、この約7100万円はどうしてもSAY企画に支払う必要があった。

 

SAY企画が中国に再委託していたのは、「扶養親族等申告書」の「氏名とフリガナ」だけだった、との機構と年金局の説明は前号で指摘したように不可能である。そうである以上、「申告書」をまるまる中国に再委託したという合理的結論に行き着くほかない。その恐ろしい事実をSAY企画に語られては困るので、口止め料として払う必要があったわけだ。

 

元年金業務監視委員会委員長で弁護士の郷原信郎氏は言う。

 

「SAY企画の契約違反を、給付業務調整室長が黙認していたことは明らかであり、中国への再委託もその延長上にあった。

 

また、『申告書』から『氏名とフリガナ』を切り出せたとしても、中国で入力した『氏名とフリガナ』のデータをプログラムに流し込めないのが明らかとなれば、『申告書』を中国に丸投げしていたことになる。それを語られては困るので、口止め料として払った可能性もある。そうだとすると、背任罪の要件の『自己の利益を図る目的』があったかどうかは別として、機構に損害を与える背任行為だった可能性もある」

 

水島理事長が国会で述べた「万全の措置をとって、SAY企画との契約を継続した」という釈明は、「万全の措置」で口止めしたということを、水島流に表現したものだった。

 

SAY企画の社長だった切田精一氏を直撃したところ、水島理事長と年金局の新たなウソとともに、機構とSAY企画とのあいだで結ばれていた密約も明らかになった。

(続く)