2023/6/8 20:51 奥原 慎平
LGBTなど性的少数者への理解増進を図る法案を巡り、衆院内閣委員会の審議入りを控えた8日、自民党内では与党案への反発が改めて噴出した。法案は女性の権利侵害につながる可能性が指摘されているにもかかわらず、審議時間はわずか80分間。自民内には日本維新の会と国民民主党の法案を評価する声が根強く、党幹部は維新との協議など対応に追われる。
「党議拘束をかけないでほしい」
自民の中村裕之衆院議員は8日、国会内で開かれた党代議士会で、与党案について党幹部にこう訴えた。周囲から「そうだ!」との掛け声が上がり、拍手も沸き起こった。党幹部は与党案について再協議する考えを示したという。
法案を巡っては▽与党案▽立憲民主、共産、社民の3党案▽維新・国民案─の3案が提出され、9日の衆院内閣委で一括審議し採決される見通しだ。
自民内で与党案に対する不満が高まっている要因の一つに、与党案の提出後、維新と国民が「女性の権利・保護」や「学校教育」に配慮する独自案を提出したことがある。維国案は、自民内の議論で指摘された与党案の懸念点を一定程度解消する記述を盛り込んでいるためだ。
自民安倍派(清和政策研究会)の8日の会合では、山谷えり子参院議員が維新・国民案を参考に与党案の修正を求めると、賛同者が拍手を送った。山谷氏は産経新聞の取材に「参院は熟議の府だ。国民の理解を深め、懸念を払拭するためにも、十分な審議時間を確保してほしい」と語った。
一部の保守系議員らは同日、国会内で法案への対応を協議。衆参両院の本会議での採決で造反するかも含め、意見交換したとみられる。(奥原慎平)
[2023年6月8日15時15分]
9日に衆院内閣委員会で審議入りするLGBTなど性的少数者への理解増進法案について、自民党の中村裕之衆院議員は8日の党代議士会で、採決の際に党議拘束を外すべきだとの考えを訴えた。中村氏は「これまで努力いただいた先生には敬意を表したい」とした上で「部会での相当な異論があった法案。内心の問題で党内にさまざまな意見がある。議員立法で3党提出の案を審議するという異例の扱いで、自民党議員のためにも党議拘束をかけないで審議をしてほしい」と訴えた。
理解増進法案は2021年5月に超党派の実務者がまとめたが、2年あまりたなざらしの状態になってきた。ただ今年サミット議長国としての体面を保つ目的もあり、自民党内での意見集約が急ピッチで進み、自民、公明両党による与党案はG7広島サミット開幕前日の5月18日、国会に「駆け込み提出」された。超党派の実務者で合意した法案の「差別は許されない」との表現が「不当な差別はあってはならない」に変更されたほか、「性自認」との文言も「性同一性」に置き換えるなど、保守派に配慮して一部に修正がはかられた。
それでも自民党内の保守派には、修正された与党案の内容にも異論を唱える声がある。代議士会での中村氏の発言に「そうだ、そうだ」の声が上がる場面もあった。自民党で造反者が出るとの見方が根強い。
9日の衆院内閣委員会では、<1>与党案<2>立民、共産、社民各党の案<3>日本維新の会と国民民主党の案という与野党の計3案を審議し、それぞれ採決する予定だが、審議時間の少なさへの批判もすでにあがっている。法案提出したものの広島サミット以降、審議のめどが立たない状況が続いていたが、与野党が7日に9日の審議入りで合意。衆参両院での審議を経て、6月21日に会期末を迎える今国会中の与党案の成立が見込まれている。
与野党間に立場の違いがあるLGBT政策に関する法案を成立させるのは、岸田文雄首相が衆院解散の判断をする上での環境整備の一環ともみられている。
岸田首相はこの日の参院財政金融委員会で、法案に対する自身の考えを問われ「与党案を含め複数の法案が提出されたと承知している。いずれも議員立法で、国会審議の前の段階で政府の立場から何か申し上げるのは控えなければならない」と述べた。参政党の神谷宗幣参院議員の質問に答えた。
その上で「多様性が尊重され、全ての人々がお互いの尊厳や人権を大切にし、生き生きとした人生を享受できる社会の実現に向けて努力しなければならない」などと訴えた。